ニューヨークのベルギー人 ……

2015年春。

我が国では無名に近い監督による“あるドキュメント映画”が公開されました。

世界的に良く知られたイベントの“制作過程”を描いたソノ作品は、登場する業界に興味がない方々の間でもケッコーな話題となり、チョット不思議な現象を巻き起こしたのを覚えております……………

 

 

『 Dior and I ( ディオールと私 ) / 監督 : Frederic Tcheng  , 2015 』

 

 

所謂“業界の裏側”にフォーカスしたドキュメンタリーは、過去にも数多く存在致しますが、本作品が“予想外に一般受けした”背景には以下の理由があると考えられます。

 

❇️ 1 ) “Christian  Dior ( クリスチャン ディオール )”という知名度が高い“老舗 名門メゾン”がテーマである。

❇️ 2 ) “オートクチュール ( 超高級 注文服 )”という“世間離れした世界”に触れられる。

❇️ 3 ) “表舞台の華やかさ”ばかりではなくデザイナー、縫製係、演出スタッフetc.の苦悩と情熱が丁寧に表現されている。

 

 

ところで上記作品の“主人公”は、2012年にChristian Diorのクリエイティブ ディレクターに就任したラフ シモンズさん ( Raf Simons : ベルギー , 1968〜 ) であります。

 

 

 

 

ラフ シモンズさんは大学で工業デザイン、映像、写真を学び、卒業後は“インテリア デザイナー”としてキャリアを重ねますが、同じベルギー人の有名ファッション デザイナーであるマルタン マルジェラさん ( Martin Margiela : ベルギー , 1957〜 ) に触発されて、“一流デザイナー製造工場”と呼ばれる「 アントワープ 王立美術アカデミー 」の入学を試みますが、学校側から「ウチに入学するよりも、資金援助しますから“御自身のブランドを設立”されては?」と促されてしまいます。

よって、1995年に自身のシグネチャー ブランド「 Raf Simons 」を設立してしまった“破格の天才”なので御座います。

紆余曲折の後、Jill Sander ( ジル サンダー ) を経てChristian Dior入りしたラフ シモンズさんにとって、 Christian Diorのクリエイティブ ディレクターは正に“天職”かと思われました。故に『  Dior and I 』公開後のChristian Diorは、ラフ シモンズさんによる“長期 安定政権”に突入したものと信じて疑いませんでしたが……………

 

何と“僅か3年”で電撃辞任してしまい、次に向かった先はChristian Diorとは真逆に位置する、“世界一の機能美”Calvin Klein ( カルバン クライン ) IN アメリカで御座いました!

しかも、Calvin Kleinのチーフ クリエイティブ オフィサー3年目にして、今回の「 New York Collection 」モチーフは余りにも意外(以下引用)。

 

 

【 着想源は「ジョーズ」 ラフの「CK」はあらゆる対立構造を飲み込み“コンテクスト主義”を提唱 】( WWD JAPAN.com )

ベルギーで生まれ、長らくヨーロッパで活躍してきたラフ・シモンズ(Raf Simons)は、「カルバン クライン(CALVIN KLEIN.以下、CK)」のチーフ・クリエイティブ・オフィサー就任を機にアメリカに移住。以降、異国人として、もっともアメリカンなブランドの刷新に挑み、マーチングバンドや警官の制服、それにチアガールのポンポンやカウボーイのブーツなどのアメリカンアイコンを彼のミニマルな世界観に取り込み、それをデヴィッド・ボウイ(David Bowie)の「This Is Not America」にのせて発表するなど、アメリカ的な世界と非アメリカ的な世界を融合することで「CK」の国際化に取り組んでいる。

今シーズンは、スティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)の映画「ジョーズ」と、チャールズ・ウェッブ(Charles Webb)の小説を原作とした映画「卒業」の2つがインスピレーション源という。( 2018年9月17日 )

 

 

 

『 Calvin Klein ー Spring / Summer 2019 ー New York Collection 』

 

 

「 ジョーズ 」は主に“パニック映画”としてカテゴライズされますが、巨大で不気味なサメを“困難ながらも立ち向かうべき権力”と見なせば、“反体制”をテーマにしたヒューマン ドラマであるとも云えます。

一方の「 卒業 」も、有名過ぎるラスト シーンを“アナーキーな倫理観”の象徴と捉えれば、「 ジョーズ 」同様の“反体制”をテーマにしたヒューマン ドラマとしての解釈が可能で御座います。

 

 

『 JAWS / 監督 : スティーブン スピルバーグ , 1975 』

 

『 THE GRADUATE ( 卒業 ) / 監督 : マイク ニコルズ , 1967 』

 

 

“コッテコテのヨーロッパ人”であるラフ シモンズさんから見れば、“トランプさん政権下のアメリカ”は、おそらく奇妙キテレツで同調しかねる部分が多いのだと推測されますが、全てを受け入れて“ニューヨークのベルギー人”であろうとするラフ シモンズさん。

 

 

 

 

『 Calvin Klein ー Spring / Summer 2019 ー New York Collection 』

 

 

1996年冬。

エージェントから提示された条件「当面の生活費5万ドルを自前で用意する事。」が満たせず、“ニューヨークの日本人”になれなかった変態オッサン……………

 

“アメリカで闘い続ける”ラフ シモンズさんに、心よりエールを送らせて頂きたいと思います!

 

 

『 Calvin Klein ー Spring / Summer 2019 ー New York Collection 』

 

 

 

 

 

( 画像は全てネットから拝借。)

 

 

“ニューヨークのベルギー人 ……” への2件の返信

  1. なるほど、勉強になります…
    ラフ シモンズさん、お恥ずかしながら初めて聞きましたが、27歳でご自身の名前のブランドを立ち上げたとは、誠に素晴らしいですなぁ…。独特のクラシックかつ伝統的なデザインが極めて特徴的ですが、ここ最近のデザインにもそれが継承されている様に感じられます…。仰る様に反体制の下、またdevilotaさんのリベンジの意味合いも兼ねて(?)、是非とも頑張っていただきたいですなぁ。

    1. くれぐれも“ジーン シモンズさん(KISS)”とお間違えのない様に……………
      ラフ シモンズさんは、ショー開演前に著しく神経質になり“取材し難いデザイナー”として知られておりますが、ショー終了後に号泣する事でも有名であります。謂わば“人間臭い天才”という極めて珍しいクリエイターだと思います!
      故に“お金”には執着しないでしょーから、御自分が“やり尽くした”と感じたらアッサリとCalvin Kleinを辞めてしまうのでは?……………
      ラフ シモンズさんみたいな“生粋のヨーロッパ人”にとって、“トランプ政権下のアメリカ”はあらゆる意味でキツいと思いますよ!!

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