迷えるニューヨークのベルギー人 ……

当ブログでは今年の9月、ラフ シモンズさん ( 元 Christian Dior ) によるCalvin Kleinコレクションを取り上げさせて頂きました。

“ヨーロッパ装飾文化”で育ったベルギー人のラフ シモンズさんが、“アメリカ機能美の最高峰”Calvin Kleinのチーフ クリエイティブ オフィサーに就任する際には、多くの葛藤と苦悩があったのでは?と推測されますが、アメリカ映画をモチーフにした斬新なコレクションを展開し、世界中の“ラフ シモンズ フリーク”を一安心させてくれました。

確かにソレは“新天地での意気込み”を充分に感じさせる、誠に素晴らしい出来栄えでありましたが、正直なところ、ラフ シモンズさん御自身が完全には吹っ切れておらず、どこか“消化不良に見えた”のがヒジョーに気になりました。

 

加えて最近、アメリカ人メル友から「ラフ シモンズのKalvin Kleinは、アーティスティック過ぎて世間の評判は芳しくない。」と聞いてチョット心配しておりましたら(以下引用)……………

 

 

【 ラフ・シモンズへの高評価が一転 不調「カルバン・クライン」の立て直し策をPVHが発表 】( WWD JAPAN )

「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」の不調を受け、同ブランドを擁するPVHコープ(PVH CORP)のエマニュエル・キリコ(Emanuel Chirico)会長兼最高経営責任者(CEO)が立て直し策を発表した。2018年8~10月期決算において、「カルバン・クライン」は売上高こそ前年同期比2.1%増の9億6300万ドル(約1088億円)となったものの、既存店の売り上げがおよそ2%下落しており、利払い前・税引き前当期利益(EBIT)は同14.7%減の1億2100万ドル(約136億円)だった。

キリコCEOは、ラフ・シモンズ(Raf Simons)=チーフ・クリエイティブ・オフィサーによるブランド刷新が「メーン顧客層にとってファッション的に先鋭的すぎ、価格帯も高すぎた」とし、「現在そうした間違いの修正に取り組んでいる。19年からは、『カルバン・クライン ジーンズ(CALVIN KLEIN JEANS)』でより商業的かつ顧客に合った製品を提供したい。今後はブランドのDNAを重視し、『カルバン・クライン』らしさを取り戻す。19年の春季で調整し、秋季には完全に再生させる」と語った。( 2018年12月3日 )

 

 

❇️ 因みに「ラフ シモンズが、2019年限りでCalvin Kleinを去る可能性は限りなく100%に近い。」by アメリカ某 ファッション ジャーナリスト。

 

ラフ シモンズさんと云えば“完璧主義者”で、コレクション制作中やショー当日は極めて“人当たりが厳しい”ので知られますが、ショーが終わった途端に“号泣”する事でも有名であります。つまりは“ガラス細工”の様に繊細で、かつ不器用な“真のクリエイター”なのだと思われます。

そんなデザイナーが、御自身のシグネチャー ブランド以外に“大手老舗メゾン”の主任デザイナーを兼任するのは、極めて“環境的に困難”な気が致します……………

 

例えば、“大手老舗メゾン”CHANELの主任デザイナーを35年も続けていらっしゃる、御存知カール ラガーフェルド大先生。

 

 

カール ラガーフェルド大先生 ( 本名 : Karl Otto Lagerfeld , ドイツ , 1933〜 )

 

 

カール ラガーフェルド大先生が手掛けるCHANEL、FENDI、Chloé、etc.はトップ モードかつ“コンサバティブなライン”を主流としており、カール ラガーフェルド大先生“本来の芸風”とほぼ一致で御座います。

 

ところが、ラフ シモンズさん“本来の芸風”は(以下参照)……………

 

 

『 Raf Simons ー Spring / Summer 2019 ー Men’s Collection in Paris 』

 

 

余りにも“アーティスティック”で個性的なのであります。

 

 

『 Raf Simons ー Spring / Summer 2019 ー Men’s Collection in Paris 』

 

 

❇️ そこで、変態オッサンの結論。

ラフ シモンズさんに於かれましては、Calvin Kleinで契約満了迄“それなりに頑張って”頂き、以降はヨーロッパに戻り“Raf Simons(御自身のシグネチャー ブランド)”に御注力されるのをオススメ致します。

 

何故ならば……………

“Raf Simons”でのパフォーマンスは、Calvin Kleinよりも遥かに“エネルギッシュ&エモーショナル”であり、何よりも“ラフ シモンズさんらしい”と感じるからで御座います!

 

 

『 Raf Simons ー Spring / Summer 2019 ー Men’s Collection in Paris 』

 

 

 

 

 

( 画像は全てネットから拝借。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニューヨークのベルギー人 ……

2015年春。

我が国では無名に近い監督による“あるドキュメント映画”が公開されました。

世界的に良く知られたイベントの“制作過程”を描いたソノ作品は、登場する業界に興味がない方々の間でもケッコーな話題となり、チョット不思議な現象を巻き起こしたのを覚えております……………

 

 

『 Dior and I ( ディオールと私 ) / 監督 : Frederic Tcheng  , 2015 』

 

 

所謂“業界の裏側”にフォーカスしたドキュメンタリーは、過去にも数多く存在致しますが、本作品が“予想外に一般受けした”背景には以下の理由があると考えられます。

 

❇️ 1 ) “Christian  Dior ( クリスチャン ディオール )”という知名度が高い“老舗 名門メゾン”がテーマである。

❇️ 2 ) “オートクチュール ( 超高級 注文服 )”という“世間離れした世界”に触れられる。

❇️ 3 ) “表舞台の華やかさ”ばかりではなくデザイナー、縫製係、演出スタッフetc.の苦悩と情熱が丁寧に表現されている。

 

 

ところで上記作品の“主人公”は、2012年にChristian Diorのクリエイティブ ディレクターに就任したラフ シモンズさん ( Raf Simons : ベルギー , 1968〜 ) であります。

 

 

 

 

ラフ シモンズさんは大学で工業デザイン、映像、写真を学び、卒業後は“インテリア デザイナー”としてキャリアを重ねますが、同じベルギー人の有名ファッション デザイナーであるマルタン マルジェラさん ( Martin Margiela : ベルギー , 1957〜 ) に触発されて、“一流デザイナー製造工場”と呼ばれる「 アントワープ 王立美術アカデミー 」の入学を試みますが、学校側から「ウチに入学するよりも、資金援助しますから“御自身のブランドを設立”されては?」と促されてしまいます。

よって、1995年に自身のシグネチャー ブランド「 Raf Simons 」を設立してしまった“破格の天才”なので御座います。

紆余曲折の後、Jill Sander ( ジル サンダー ) を経てChristian Dior入りしたラフ シモンズさんにとって、 Christian Diorのクリエイティブ ディレクターは正に“天職”かと思われました。故に『  Dior and I 』公開後のChristian Diorは、ラフ シモンズさんによる“長期 安定政権”に突入したものと信じて疑いませんでしたが……………

 

何と“僅か3年”で電撃辞任してしまい、次に向かった先はChristian Diorとは真逆に位置する、“世界一の機能美”Calvin Klein ( カルバン クライン ) IN アメリカで御座いました!

しかも、Calvin Kleinのチーフ クリエイティブ オフィサー3年目にして、今回の「 New York Collection 」モチーフは余りにも意外(以下引用)。

 

 

【 着想源は「ジョーズ」 ラフの「CK」はあらゆる対立構造を飲み込み“コンテクスト主義”を提唱 】( WWD JAPAN.com )

ベルギーで生まれ、長らくヨーロッパで活躍してきたラフ・シモンズ(Raf Simons)は、「カルバン クライン(CALVIN KLEIN.以下、CK)」のチーフ・クリエイティブ・オフィサー就任を機にアメリカに移住。以降、異国人として、もっともアメリカンなブランドの刷新に挑み、マーチングバンドや警官の制服、それにチアガールのポンポンやカウボーイのブーツなどのアメリカンアイコンを彼のミニマルな世界観に取り込み、それをデヴィッド・ボウイ(David Bowie)の「This Is Not America」にのせて発表するなど、アメリカ的な世界と非アメリカ的な世界を融合することで「CK」の国際化に取り組んでいる。

今シーズンは、スティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)の映画「ジョーズ」と、チャールズ・ウェッブ(Charles Webb)の小説を原作とした映画「卒業」の2つがインスピレーション源という。( 2018年9月17日 )

 

 

 

『 Calvin Klein ー Spring / Summer 2019 ー New York Collection 』

 

 

「 ジョーズ 」は主に“パニック映画”としてカテゴライズされますが、巨大で不気味なサメを“困難ながらも立ち向かうべき権力”と見なせば、“反体制”をテーマにしたヒューマン ドラマであるとも云えます。

一方の「 卒業 」も、有名過ぎるラスト シーンを“アナーキーな倫理観”の象徴と捉えれば、「 ジョーズ 」同様の“反体制”をテーマにしたヒューマン ドラマとしての解釈が可能で御座います。

 

 

『 JAWS / 監督 : スティーブン スピルバーグ , 1975 』

 

『 THE GRADUATE ( 卒業 ) / 監督 : マイク ニコルズ , 1967 』

 

 

“コッテコテのヨーロッパ人”であるラフ シモンズさんから見れば、“トランプさん政権下のアメリカ”は、おそらく奇妙キテレツで同調しかねる部分が多いのだと推測されますが、全てを受け入れて“ニューヨークのベルギー人”であろうとするラフ シモンズさん。

 

 

 

 

『 Calvin Klein ー Spring / Summer 2019 ー New York Collection 』

 

 

1996年冬。

エージェントから提示された条件「当面の生活費5万ドルを自前で用意する事。」が満たせず、“ニューヨークの日本人”になれなかった変態オッサン……………

 

“アメリカで闘い続ける”ラフ シモンズさんに、心よりエールを送らせて頂きたいと思います!

 

 

『 Calvin Klein ー Spring / Summer 2019 ー New York Collection 』

 

 

 

 

 

( 画像は全てネットから拝借。)